交通渋滞研究の現状について

 

交通渋滞の研究について、主なものを簡単に述べてみる。

 

 交通渋滞の研究対象は、高速道路における、いわゆる自然渋滞が主である。その理由はおおよその見当がつくかもしれないが、それについて後でみてゆくことにして、最初に組織の現状として研究グループの大まかな区分を説明しておく。

 

 研究グループはおよそ3つに分けられる。道路を設計建設する立場である「交通工学」のグループがあり、おもに「円滑で安全な道路」の設計方法を考える。一方、交通流を数理的、力学的に説明しようとする立場である「応用数理」のグループがあり、さらに、これらに関するシミュレーションシステムづくりを中心に研究を行うグループとがある。実際にははっきりとした境界はないと言えるだろう。また、社会学および心理学的研究も行われているが、いずれにせよ、おおよその立場や目的の違いが分かれば十分かと思われる。

 

 では、実際のところ研究進行状況はどうかといえば、交通流の基本的な挙動については、まだ分かっていないことが多い。渋滞緩和の方法についても同様である。また、コンピュータシミュレーションについても簡単なシステム構築段階に止まっている。大規模広範囲で詳細なシミュレーションは計算時間などから現実的ではないためである。そこで以降、交通渋滞研究の現状を述べるにあたり、研究成果的な側面は、実際の道路状況を確認していただくとして、研究手法を中心に説明し、おおよその現状を示すことにしたいと思う。

 

 まず、高速道路における交通流の研究についてであるが、その根拠としているものは、高速道路内に設置された観測装置からデータをとり、月単位の集積データを基にグラフ化された基本図(車両密度―流量の関係)とよばれるものである。モデルの妥当性などもこれで検証されている。そこでモデル化の際の基本的な考え方についてであるが、それは交通渋滞の研究者がどのような捉え方をしているか、その思想を物語るという意味で重要であるかもしれないので、代表的なものを簡単に説明したいと思う。

 

モデル化の際には、直線で一車線の道路を多数の車両が走行しているとして、そのうち二台に着目し、これらの車両間の関係を定式化するというのが最も代表的な手法である。その他、三車以上または複数車線などの場合には、もっぱらこの応用として考えていると言えるだろう。(あるいは二車線を基本として、複数車線はこの応用として考えるなどである)

 

このようなモデルは「追従モデル」と言われ、交通渋滞の研究では古い歴史をもつものである。基本的な考え方は現在でも受け継がれており、上述した3つの研究グループが得た多くの研究成果はコンピュータシミュレーションにより検証を行っているが、その大半がこのモデルを用いて車両を走行させている。このようにしてある程度妥当なモデルが得られているわけであるが、時と場所によって、そのつどパラメータを変更する必要があったり、ある環境では妥当なモデルであっても別な環境では一部再現されない現象があるなど、多くの問題が残されている。

 

つぎに、一般道における交通流の研究についてであるが、高速道路に比べあまり研究は行われていない。主な研究対象は、交差点における信号機のタイミングなどの制御である。一般道においては、高速道路などにみられる自然渋滞のような一見原因不明な渋滞がみられないためである。高速道路における交通流が研究対象の主力になる所以である。そのため一般道については、その代表的な研究として、信号機の最適な制御方法に関するものを取り上げたいと思う。

 

まず、比較的交通量の少ない孤立した一つの交差点に着目する。ここでは細かいことは書かないが、通過する車両についても最低限必要と思われる基本的な前提条件が設定されている。これより待ち行列理論の考え方を用いて数理解析やシミュレーションを行い、交差点を使用する車両の平均待ち時間を最小化する手法がある。国内にかかわらず多くの信号機がこの手法を基に制御されている。しかしながら、複数の交差点が関連しあっている場合、あるいは交通量が変動する場合などについての最適な制御方法は得られていない。この理由についても簡単に説明しておく。

 

最も分かり易いのは、ある交差点をボトルネックとした渋滞列が、他の交差点に達してしまうことである。また、そのような交差点間を車両が移動する際にある程度時間がかかるが、交通状況の変化を見るためには、その移動時間を考慮する必要があることである。 さらには、一つの交差点には複数の信号機があるため、各交差点の信号機を制御する際、その相互作用が非常に大きくなることなどがあげられる。

 

以上、交通渋滞の研究に関するおおまかなところを述べたにすぎないが、高速道路にせよ、一般道の研究にせよ本質的には同じような問題をかかえていることが示せたのではないかと思う。

 

F.Ueda, Rep. Path Find. Phys., Vol.1, (2002)